チームの中に、他のメンバーとぶつかる言動を繰り返す人がいる。スクラムマスターはどう関わるのが良いか?
実践者の問い(pq-07)。取り込み済みの文献のうち 12 本から拾った 22 件の事例と知見にもとづく。ここに無い打ち手が存在しないという意味ではない。
結論(TL;DR)
Section titled “結論(TL;DR)”特定の 1 人がぶつかる言動を繰り返すときに、スクラムマスターの関わり方の効果を確かめた文献は、今回読んだ範囲では見つかっていません。事例も少数です。文献が示しているのは、まず見立てです。協力の難しさは、技術力よりも、責任の受け入れと期待のずれから生じていたという研究があり、役割の問題は技術力の不足と取り違えられやすいとされています。リモートでの苛立ちが、作業の配分と責任の曖昧さから生じていた報告もあります。打ち手の事例には、プロダクトオーナーが間に入って率直なフィードバックの場を作り、相談なしに決めて進めていた開発者の働き方が変わったもの、会議を妨げる言動をコーチがレトロスペクティブの話題にしたものがあります。後者では本人の言動は変わらず、周りが個人的に受け止めずに対処できるようになり、最後はマネジメントの判断で本人が別の道に進みました。 2 人の言い争いが数週間くすぶったあと、1 人が突然チームを去り、もう 1 人が燃え尽きで休んだ事例もあります。ソフトウェア開発の研究のレビューでは、信頼と敬意のある関係やデイリー・レトロスペクティブなどの実践が、心理的安全性の先行要因として報告されています。医療で心理的安全性を高めようとした介入のレビューでは、効果は一貫していませんでした(心理的安全性を測った 3 件のうち 2 件が改善、1 件はまちまち)。病院の職員の調査では、対人の対立が多いと答えた職員ほど、自分のチームの成果を低く評価していました。アジャイルの意思決定の研究のレビューでは、否定的な感情が対立を増やし意思決定の質を下げるという研究が挙げられています。設計を決める場での対立について、方法にスクラムマスターの仲介を含めた研究もありますが、仲介がどう効いたかは書かれていません。
打ち手と事例
Section titled “打ち手と事例”2 人の言い争いが数週間くすぶり、1 人が突然チームを去り、もう 1 人が燃え尽きで休んだ [A Theory of Scrum Team Effectiveness(2022)]
Section titled “2 人の言い争いが数週間くすぶり、1 人が突然チームを去り、もう 1 人が燃え尽きで休んだ [A Theory of Scrum Team Effectiveness(2022)]”- 状況: スクラムチームの有効性の研究の前半で行った、複数の組織の事例観察のうちの 1 件。対象は、複数のスクラムチームがある情報技術の組織である。あるチームで、2 人のメンバーの間の言い争いが数週間かけて積み上がっていた。このチームのスクラムマスターは、メンバーが絶えず互いの話をさえぎり、聞いていないと述べている。
- やったこと: 本文は、この言い争いに誰かが手を打ったかどうかを書いていない。
- 起きたこと: 言い争いは最後に表に出て、1 人のメンバーが突然チームを去り、もう 1 人は燃え尽きて家にいることになった。著者は、話をさえぎり合い、かぶせて話す同じ型を、ほかのいくつかのスクラムチームでも観察している。著者は、チームの中の対立への向き合い方がチームによって分かれていたことを、心理的安全性の違いを示すものとして挙げている。
- 注意点: 観察者の記述で、言い争いの中身(仕事の進め方か、人どうしの関係か)や、去ったことと燃え尽きの原因は書かれていない。同じ組織では、上位の管理職がチームの部屋に開発の速さを厳しく批判するメモを残すことがあったと別の節にあり、チームの外からの圧力も重なっていた可能性がある(本文はこの 2 つを結びつけていない)。
- 根拠: 事例研究/単一チーム。文献: A Theory of Scrum Team Effectiveness(2022)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 4.4 Results from the case studies(Psychological Safety)。確認の根拠: 原典
- 原文: “an argument built up between two members over several weeks eventually erupted when one member suddenly left the team, and another ended up at home with a burnout”
会議を妨害し欠席するメンバーの言動を、コーチがレトロスペクティブの話題にし、本人の行動は変わらなかったが、周りは個人的に受け止めずに対処できるようになった [Role clarity deficiencies can wreck agile teams(2019)]
Section titled “会議を妨害し欠席するメンバーの言動を、コーチがレトロスペクティブの話題にし、本人の行動は変わらなかったが、周りは個人的に受け止めずに対処できるようになった [Role clarity deficiencies can wreck agile teams(2019)]”- 状況: ドイツのスタートアップの Scrum チーム。ある開発者がキャリアの次の段階としてチームリードになり、他の人に仕事を割り振りたいと考え、マネジメントに申し出たが、アジャイルの働き方に合わないとして断られた。その後、この開発者は会議を妨害したり、会議に出なかったりするようになった。周りのメンバーは理由が分からず戸惑い、朝に仕事へ行きたくなくなりかけるほど居心地の悪さを感じていた。
- やったこと: コーチ(スクラムマスター)が、この言動を次のレトロスペクティブの話題にした。その場で本人は、アジャイルの枠から外してチームリードの役割を与えるようマネジメントに仕向けるための、意図的なやり方だと説明した。チームはそのことを率直に話し合った。
- 起きたこと: コーチによれば、話し合いは状況を解決せず、本人の言動も変わらなかった。一方で、他のメンバーはその言動を個人的に受け止めなくなり、より落ち着いて対処できるようになった。著者は、本人の「妨害する役割」をチームが認識した(受け入れはしなかった)ことで、部分的な明確さが生まれ、チームとしてより良く働けるようになったと解釈している。最終的には、マネジメントが本人に別の道を行くことを提案し、本人もそれに合意した。
- 注意点: 経過はコーチの話を著者が要約したもので、研究者がそのレトロスペクティブを観察したかは書かれていない。本人の言動そのものは変わっておらず、解決は最終的にマネジメントの判断(離職)によっている。著者自身、完全な役割の受け入れは不可能かもしれないとしている。グラウンデッド・セオリーによる質的研究で、効果を測ったものではない。
- 根拠: 事例研究/単一チーム。文献: Role clarity deficiencies can wreck agile teams(2019)。文献の種類: 論文・研究者。位置: RESULTS / Effects of having Role clarity / Robustness Against Dysfunctional Behavior(Quote No. 10)。確認の根拠: 原典
- 原文: “The coach t4sm2 makes this behavior a topic of the next retrospective.”
相談なしに決めて進める開発者との長い対立を、プロダクトオーナーが間に入って率直なフィードバックの場を作り、本人の働き方が変わった [Role clarity deficiencies can wreck agile teams(2019)]
Section titled “相談なしに決めて進める開発者との長い対立を、プロダクトオーナーが間に入って率直なフィードバックの場を作り、本人の働き方が変わった [Role clarity deficiencies can wreck agile teams(2019)]”- 状況: ドイツの大企業の Scrum チーム(ウォーターフォールの長い経験から、アジャイルに移って約 1 年)。ある開発者が、チームに諮らずに一人で決めて実装を進めることを繰り返し、最古参の開発者がそれに強く反発した。二人は長いあいだ口をきかない状態になり、この対立は複数のメンバーのインタビューや雑談に出てくるほど強かった。著者は、この開発者は経験の浅い人ではなく、問題は技術力ではなく、チームで責任を引き受けるという自分の役割を受け入れていないこと(役割の明確さの欠如)だと見立てている。
- やったこと: プロダクトオーナーが二人の間に入って仲裁した。仲裁の中心は、最古参の開発者が、相手の仕事を「合意されておらず、後で多くの手間を生む」として率直に(外交的でない言い方で)伝えるフィードバックだった。著者は、このフィードバックが行われるには、プロダクトオーナーによる場づくりの働きかけが必要だったと書いている。
- 起きたこと: 仲裁のあと、その開発者は一人で決めることをやめ、関心の薄い話題の議論にも加わって聞くようになり、実装の前に考えを示すようになったと、相手の開発者は語っている。著者は、その後チームの協力がよくなった証拠があるとしている。
- 注意点: 経過は対立の当事者の一方(最古参の開発者)の回想によるもので、仲裁の場面を研究者が直接観察したものではない。著者によれば、多くの引用はドイツ語から英訳されている。仲裁したのはスクラムマスターではなくプロダクトオーナーで、著者はこの場面での役割を「コーチ」と呼んでいる。グラウンデッド・セオリーによる質的研究で、効果を測ったものではない。
- 根拠: 事例研究/単一チーム。文献: Role clarity deficiencies can wreck agile teams(2019)。文献の種類: 論文・研究者。位置: RESULTS / Self-Reflection to gain Local role clarity(Quotes No. 4–6)。確認の根拠: 原典
- 原文: “the situation required a facilitation initiative of t2po to make this feedback happen”
互いを褒めるレトロスペクティブゲームで、メンバー間の緊張が機能の作り方の違いから来ていたと分かり、両方を合わせた解決に合意した [Game-based Sprint retrospectives(2021)]
Section titled “互いを褒めるレトロスペクティブゲームで、メンバー間の緊張が機能の作り方の違いから来ていたと分かり、両方を合わせた解決に合意した [Game-based Sprint retrospectives(2021)]”- 状況: ポーランドのソフトウェア会社の Scrum チームでレトロスペクティブの質を上げようとしたアクションリサーチのうち、Dynatrace の 1 チーム(Dyna_A)の報告。このチームのメンバーは、互いの貢献を認め合うゲーム(360 Degrees Appreciation)を使うことに、多くが乗り気でなかった。
- やったこと: 研究者がレトロスペクティブゲームを入れ、その 1 つとして 360 Degrees Appreciation を使った。このゲームは、チームの中で、互いの努力・貢献・手助けを率直に認め合う場を作るものである。
- 起きたこと: Dyna_A のメンバーの多くは、最初の回のあと、ゲームで雰囲気が良くなったと認めた。メンバーは、このゲームはメンバーの間に誤解や言い争いがあるときに特に役立つと述べた。あるとき、このゲームを使って、メンバーの間のいくつかの緊張が、ある機能の作り方についての考え方の違いから来ていたと分かった。チームは、両方の考え方を合わせた解決に合意した。一方で、どのチームも、このゲームはほかのゲームより間を空けて、たとえば 2 か月ごとに使うのがよいとした。
- 注意点: 報告はフォーカスグループでのチームの発言にもとづく。緊張の中身や、合意の後に関係がどうなったかは書かれていない。 Dyna_A の一部のメンバーは、別のチームに移されると分かっていたので研究に否定的で、チームワークの改善に関心が無かったと認めている。別のチームは、ゲームのあとに通常の進め方に切り替えて改善の行動を決めており、このゲームだけではレトロスペクティブが完結しない。
- 根拠: アクションリサーチ/単一チーム。文献: Game-based Sprint retrospectives: multiple action research(2021)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 5.4.2 Focus groups(4. Are any of the games particularly useful in some situations/circumstances?)。確認の根拠: 原典
- 原文: “they found out that some tensions between them were due to diferent approaches to developing a particular feature”
メンバーが懸念や不満を口にする時間を意図して取るチームがあり、外部のコーチの助けを求めたチームもあった [A Theory of Scrum Team Effectiveness(2022)]
Section titled “メンバーが懸念や不満を口にする時間を意図して取るチームがあり、外部のコーチの助けを求めたチームもあった [A Theory of Scrum Team Effectiveness(2022)]”- 状況: スクラムチームの有効性の研究の前半で行った、複数の組織の事例観察。話をさえぎり合い、かぶせて話す型が、いくつかのスクラムチームで観察された。
- やったこと: ほかのチームは、メンバーが個人的な懸念や不満を口にする時間を意図して取っていた。ある組織のチームは、高まる不満に向き合うために、外部のコーチに積極的に助けを求めた。別のチームでは、2 人のメンバーが、締め切りを守る力に顧客が満足しているかを深く心配していたので、チームで 1 時間の場を設けて話し合った。
- 起きたこと: 1 時間の場を設けたチームのメンバーは、頭の中でもやもやしていることを話すのは、先に進むために自分には大事だと語った。外部のコーチに助けを求めたチームの結果は書かれていない。著者は、これらの観察を心理的安全性を示すものとして挙げている。
- 注意点: 1 時間の場で取り上げられた懸念は顧客の満足と締め切りで、メンバーどうしの対立そのものではない。ほかのチームの懸念・不満の中身は書かれていない。観察の記述で、場を設けた前後の変化は測っていない。著者は後半の調査で心理的安全性と継続的改善の関係を分析しているが、対立への向き合い方そのものの効果は分析していない。
- 根拠: 事例研究/複数チーム。文献: A Theory of Scrum Team Effectiveness(2022)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 4.4 Results from the case studies(Psychological Safety)。確認の根拠: 原典
- 原文: “other teams purposefully made time for their members to express personal concerns and frustrations”
デイリーで話が長い人に時間を区切るなど、規律を求めるスクラムマスターの役割は、利点を感じる人と「人より手順」と受け取る人に分かれた [An empirical study on changing leadership in agile teams(2021)]
Section titled “デイリーで話が長い人に時間を区切るなど、規律を求めるスクラムマスターの役割は、利点を感じる人と「人より手順」と受け取る人に分かれた [An empirical study on changing leadership in agile teams(2021)]”- 状況: Bosch の複数の部門でスクラムマスター・開発者・プロダクトオーナーに聞き取りをした、グラウンデッドセオリーの研究。はじめは、スクラムのやり方に従うのを渋るメンバーがいた。あるスクラムマスターは、デイリーで 15 分を過ぎてもまだ話し続ける人がいたと語っている。
- やったこと: そのスクラムマスターは、2、3 回は様子を見てから、それではうまくいかないと慎重に指摘し、だんだんはっきり伝え、最後はスタンドアップに時計を置いて「時間切れだ」と言った。ほかのスクラムマスターも、デイリーで話す時間を守ることや、レトロスペクティブで合意した取り組みの追跡のような規律を求めた。著者はこれを、肩書きや地位の力ではなく対等なやりとりで規律を保つ役割(Disciplinizer on Equal Terms)と呼んでいる。
- 起きたこと: スクラムマスターたちによれば、規律を求めると、メンバーはその利点を理解し始めた。一方で、この役割を快く思わず、ある振る舞いを強いられていると感じた開発者もいた。時間の管理を歓迎する人もいれば、手順を守らせることに関心があって人を気にかけていないと感じる人もいた。著者は観察から、いくつかのチームでは時間が経つと開発者のほうがスクラムマスターに、遅刻しないことや話す時間を守ることなど合意したルールを守るよう言うようになったとしている。終わらない議論をやめるよう仲間に促す開発者もいた。
- 注意点: 対象は、会議で話し過ぎるといった進め方の規律で、他のメンバーとぶつかる言動そのものではない。受け止めが分かれたことは書かれているが、それぞれの人数や、その後の関係の変化は書かれていない。分かれたのは規律を求める役割全体への受け止めで、デイリーの時間を区切ったこと単独への反応としては書かれていない。著者は、この役割がアジャイルの役割と言えるかに確信を持てないと書いている。
- 根拠: 事例研究/複数チーム。文献: An empirical study on changing leadership in agile teams(2021)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 4.1.2 Role 2: Disciplinizer on Equal Terms。確認の根拠: 原典
- 原文: “others felt that the Disciplinizer was more interested in following a process than caring for people”
考え方の違う人どうしの橋渡し(Moderator)は、開発者に移らずスクラムマスターに残る傾向があった [An empirical study on changing leadership in agile teams(2021)]
Section titled “考え方の違う人どうしの橋渡し(Moderator)は、開発者に移らずスクラムマスターに残る傾向があった [An empirical study on changing leadership in agile teams(2021)]”- 状況: Bosch の複数の部門でスクラムマスター・開発者・プロダクトオーナーに聞き取りをした、グラウンデッドセオリーの研究。著者は、職能横断のチームでは考え方・振る舞い・性格が人によって違い、専門の言葉や仕事の習慣の違いから互いをうまく理解できないことがあると書いている。あるプロダクトオーナーは「自分たちはよく議論するので、スクラムマスターが会話を進め、違う見方の間を取り持つ必要がある」と語った。
- やったこと: 複数のスクラムマスターが、異なる領域の人どうしの間を取り持ち、互いの見方を受け入れられるよう手助けしていた。著者はこれを、会議を進行し、見方や領域の間に橋を架ける Moderator の役割と呼んでいる。
- 起きたこと: 著者は、開発チームが Moderator の役割を担えたチームに出会わなかった。開発者が進行した、よく準備された会議は、レトロスペクティブのはずが計画づくりで終わった。 2 つのチームは、チームの一員として作業していると議論の中で中立を保つのが難しいので、スクラムマスターが Moderator である必要があると考えていた。著者は、Moderator と Protector の役割は、成熟したチームでも専任のスクラムマスターに残る傾向があったとしている。
- 注意点: 取り持ちの対象は、専門領域の違いからくる見方の違いで、特定の人の繰り返す言動ではない。取り持ちによって議論がどう変わったかの記述は無い。ふりかえりに関する根拠は、開発者の進行した会議が、ふりかえりの予定だったのに計画づくりで終わったという一文だけで、ふりかえりの質を上げる手段を示したものではない。インタビューにもとづく 1 社の研究で、結果は一般化できないと著者は書いている。
- 根拠: 事例研究/複数チーム。文献: An empirical study on changing leadership in agile teams(2021)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 4.1.6 Role 6: Moderator / 4.2 The Role Transfer Process(third step)。確認の根拠: 原典
- 原文: “We have not come across any team within which the Development Team succeeded in playing the Moderator.”
レトロスペクティブの前に毎回「誰かを責める場ではない」と伝えるスクラムマスターがいた。別のチームでは、個人に向いていた話が自分たちで変えられることに移った [An empirical study on changing leadership in agile teams(2021)]
Section titled “レトロスペクティブの前に毎回「誰かを責める場ではない」と伝えるスクラムマスターがいた。別のチームでは、個人に向いていた話が自分たちで変えられることに移った [An empirical study on changing leadership in agile teams(2021)]”- 状況: Bosch の複数の部門でスクラムマスター(社内では Agile Master と呼ぶ)・開発者・プロダクトオーナーに聞き取りをした、グラウンデッドセオリーの研究。あるスクラムマスターは、チームの最初のレトロスペクティブはかなりひどく、話がいつも外に向いていて、「マネージャーが何もしない」「チームがあれをしない」のように、いつも個人に焦点が当たっていたと語っている。
- やったこと: 別のスクラムマスターは、レトロスペクティブの前に毎回、目的は誰かを責めることではなく、互いに建設的に話し合って成長することだと説明し、失敗してもよい雰囲気を作ろうとしたと語っている。チームの振る舞いを観察し、生じつつある対立を表に出したと話す回答者もいた(著者はこれを Coach の役割と呼ぶ)。
- 起きたこと: 最初のレトロスペクティブを語ったスクラムマスターによれば、やがてチームは自分たちが影響でき変えられることを話せるようになった。大きな変化ではないが、それが自分の動機づけになったと述べている。この変化と、毎回「責める場ではない」と伝えたこととの因果は、原文には書かれていない(別々の回答者の話である)。ある開発者は、レトロスペクティブで意見を言ったり心を開いたりするよう促され、ほかのメンバーも「これは不満だ」と言うようになり、そのように率直に話すことはそれまで無かったと語った。著者は、レトロスペクティブが心理的安全性や互いの違い(性格や仕事の進め方)の共有を育てたとまとめている。
- 注意点: インタビューでの本人の回想で、レトロスペクティブの前後を測ったものではない。特定の人の言動が他のメンバーとぶつかる状況を扱った事例ではなく、チームの話し合いの向きが個人から自分たちの行動に移った報告である。研究の焦点はスクラムマスターからチームへのリーダーシップの移り変わりで、対立の解消は主題ではない。結果は 1 社の文脈に限られると著者は書いている。
- 根拠: 事例研究/複数チーム。文献: An empirical study on changing leadership in agile teams(2021)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 4.1.3 Role 3: Coach / 4.4 Retrospective。確認の根拠: 原典
- 原文: “the purpose was not about blaming someone but to discuss constructively with each other and to develop further”
前提に反する事例
Section titled “前提に反する事例”今回読んだ範囲では、見つかっていない。
調査から分かっていること
Section titled “調査から分かっていること”誰が何を受け持つかが曖昧なまま、出社組の負荷が高くなり、出社しないメンバーに苛立った [Agile software development one year into the COVID-19…(2022)]
Section titled “誰が何を受け持つかが曖昧なまま、出社組の負荷が高くなり、出社しないメンバーに苛立った [Agile software development one year into the COVID-19…(2022)]”- 状況: COVID-19 の流行下のアジャイル開発の実務者へのインタビューのうち、1 人の語り。ハードウェアを扱う仕事のように、オフィスでしかできない作業が残っていた。流行の始めには、誰が何に責任を持つのかがはっきりしていなかった。
- やったこと: 本文は、この状況に対して誰かが何かをしたかどうかを書いていない。
- 起きたこと: 結果の記述なし。 オフィスで働き続けたメンバーは、リモートで働くメンバーより負荷が高くなり、オフィスに来ないメンバーに苛立つようになった。著者は、これをチームの士気が下がった理由の 1 つとして挙げている。この状況への打ち手と、その結果の記述なし。
- 注意点: 1 人のインタビューの語りで、苛立ちがどう表れたか、その後どうなったかは書かれていない。苛立ちの原因として本文が挙げているのは、作業の配分と責任の曖昧さで、特定の人の性格ではない。
- 根拠: 事例研究/単一チーム。文献: Agile software development one year into the COVID-19 pandemic(2022)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 4.3.4 Teams(Teamwork)。確認の根拠: 原典
- 原文: “The team members who still worked in office ended up with higher workload than those who worked remotely and became irritated on those who did not come to the office.”
協力の難しさは、実際の技術力よりも、責任の受け入れと期待のずれから生じていた。観察した離職は 1 件を除いて役割の問題が関わっていた [Role clarity deficiencies can wreck agile teams(2019)]
Section titled “協力の難しさは、実際の技術力よりも、責任の受け入れと期待のずれから生じていた。観察した離職は 1 件を除いて役割の問題が関わっていた [Role clarity deficiencies can wreck agile teams(2019)]”- 状況: ドイツの 5 つの Scrum チームを、作業の観察と、メンバーへのインタビュー(10 件)とチーム外のコーチなどへの専門家インタビュー(6 件)の計 16 件で、グラウンデッド・セオリーにより分析した研究。著者は「役割」を職名ではなく、責任の範囲と、それをこなすのに要る専門性の組み合わせとして定義し、責任を受け入れ、専門性を持ち、それに沿って動くことで、役割への期待が満たされるとしている。そのうえで、本人が自分の役割を理解し受け入れていること(個人の役割の明確さ)と、チーム全員が互いの役割を理解し受け入れ、支え方を知っていること(チーム全体の役割の明確さ)を区別している。
- やったこと: 介入ではなく、チームの観察から役割の明確さと摩擦・離職の関係を分析したもの。
- 起きたこと: 著者は、役割の明確さの欠如による摩擦は強く現れることがあり、技術力の不足と取り違えられやすいとしている。協力を難しくしていたのは、実際の技術力よりも、責任の受け入れと期待の食い違い(自分や同僚の力量の見積もりの違いを含む)だったと述べている。観察したチームで離職は 5 件あり、1 件を除くすべてで役割の問題が大きく関わっていた。離職した人の中には、技術力がありながら、自分の役割を自分で考えなかった人、会議を妨害した人、自己評価が周りの評価と大きくずれていた人が含まれる。あるチームでは、同僚の働き方に不満を持つ開発者が、終業後に相手を訪ねて自分の気持ちを打ち明けたが、その後の解決を追わずに黙り込み、やがて感情を爆発させて会社を去った。そのチームは数か月のうちに解散した。著者は、コーチが場を作る役割の振り返りが助けになるだろうとしつつ、それでも十分な理解と受け入れに至るのは難しいとしている。
- 注意点: グラウンデッド・セオリーの研究で、著者自身が理論的飽和に達していないとし、現象の頻度や重要度は測れないとしている。対象はすべてドイツの Scrum チームで、多くの概念は少数の事例にもとづく。離職と役割の問題の関係は研究者の解釈で、他の要因との切り分けはしていない。コーチの振り返りが助けになるという点は、著者の推測として書かれている。
- 根拠: 事例研究/複数チーム。文献: Role clarity deficiencies can wreck agile teams(2019)。文献の種類: 論文・研究者。位置: RESULTS / Effects of not having Role clarity: Wrecking teams / The effects of emotions; DISCUSSION / Summary of findings; LIMITATIONS。確認の根拠: 原典
- 原文: “With only one exception, roles issues were involved and played a major part in the event”
リモートのスクラムでは、書き言葉での誤解とチームの結びつきの弱まりが報告され、レトロスペクティブで本当の問題が率直に話されるとは限らなかった [Applicability of the Scrum Methodology in Remote Work…(2026)]
Section titled “リモートのスクラムでは、書き言葉での誤解とチームの結びつきの弱まりが報告され、レトロスペクティブで本当の問題が率直に話されるとは限らなかった [Applicability of the Scrum Methodology in Remote Work…(2026)]”- 状況: リモートまたはハイブリッドでスクラムを経験した IT・ソフトウェア開発の実務者(開発者・スクラムマスター・プロダクトオーナー)へのアンケート調査。リッカート尺度の評定と自由記述を組み合わせ、自由記述は主題分析で分類している。
- やったこと: 介入ではなく、リモートの働き方と、コミュニケーション・チームの結びつき・心理的安全性についての受け止めを調べたものである。自由記述では、困りごとを和らげるのに効いた方法も尋ねている。
- 起きたこと: 書き言葉のコミュニケーションは誤解を生みやすいと受け止められていた。チームの結びつきが弱まるという受け止めは、プロダクトオーナーより開発者とスクラムマスターに多く、完全リモートの人のほうがハイブリッドや出社の人より強く同意していた。自分の意見や問題を口に出すことについては、困らない人もいれば受け身になる人もいて、経験が分かれていた。著者は、レトロスペクティブで本当の問題がいつも率直に話されるわけではないことを、心理的安全性を支える必要の表れとしている。自由記述では、スクラムマスターとプロダクトオーナーが進め方をより積極的に規律をもって管理することが効いたという声と、対面で集まる機会を増やしたいという提案があった。困りごとを和らげる方法を特に使っていないという回答もあった。
- 注意点: ある時点のアンケートで、回答者は職業上のつながりなどから集めた便宜的な標本であり、結果は回答者の受け止めである。集計は割合と平均だけで、要因と結果の関係を統計的に検定してはいない。特定のメンバーが他者とぶつかる言動を扱った調査ではなく、提案された打ち手の効果も確かめられていない。レトロスペクティブ固有の根拠は、率直に話せるかを尋ねた 1 つの設問の結果と著者の考察の一文である。自由記述の「進め方を規律をもって管理する」は書き言葉の誤解への対策として挙がったもので、レトロスペクティブ固有の対策ではない。
- 根拠: 調査(アンケート)/複数チーム。文献: Applicability of the Scrum Methodology in Remote Work Environments and the Challenges Encountered(2026)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 5.4 Communication and Coordination / 5.5 Team Engagement and Psychological Safety / 5.10 Thematic Analysis of Open-Ended Questions。確認の根拠: 原典
- 原文: “real issues are not always openly expressed during Retrospective meetings”
リモートで誤解は増えたのに対立は増えておらず、対立が起きそうな話し合いは対面のほうが安全と見られていた [Agile software development one year into the COVID-19…(2022)]
Section titled “リモートで誤解は増えたのに対立は増えておらず、対立が起きそうな話し合いは対面のほうが安全と見られていた [Agile software development one year into the COVID-19…(2022)]”- 状況: COVID-19 の流行から約 1 年の時点で、リモートワークに移ったアジャイル開発の実務者に、アンケート(96 人)と、異なる 7 社の 7 人への半構造化インタビューを行った混合研究。
- やったこと: 介入ではなく、流行の前と比べた変化を尋ねた調査である。
- 起きたこと: 回答者の約半数(49%)が誤解が増えたと答えた一方で、対立や意見の不一致については、多数が増えも減りもしていないと答えた。インタビューでは、オンラインの会議では安全だと感じにくい人がいて、心理的安全性が無いと持ち出されない話があることが分かった。大事なことを書き言葉やチャットで話すのを危ういと感じる人がいて、書いたものが痕跡として残ることへのおそれが、いくつもの事柄を保留にすることにつながりうると、著者はインタビューから述べている。対立が起きそうで感情が強く出る話し合いは、物理的な場所で行うほうが安全だと見られていた。著者は、誤解が増えたのに対立が増えていないことから、チームがこの間に成熟しておらず、先送りした話し合いがオフィスに戻ったときに噴き出すおそれがあると推測している。
- 注意点: 対立が増えていないことと話し合いの先送りを結びつけたのは著者の推測で、検証はしていない。インタビューは 7 人で、対立の中身や、特定の人の言動による摩擦は扱っていない。アンケートは本人の受け止めで、流行の前との比較は回想である。
- 根拠: 調査(アンケート)/複数チーム。文献: Agile software development one year into the COVID-19 pandemic(2022)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 4.3.4 Teams / 4.4.2 Personal Experience & Opinions(Psychological Safety) / 7 Conclusion。確認の根拠: 原典
- 原文: “As conflicts have not increased, despite a substantial increase of misunderstandings, there is a risk that the teams have not matured during the COVID-19 pandemic and that the discussions that they have postponed will explode when they are back in office.”
メンバーの不満の言動は、チームに自律性が無く手の届かないことに向かうときに伝染しやすく破壊的になると、著者はリーダーたちの語りからまとめている [What makes effective leadership in agile software…(2022)]
Section titled “メンバーの不満の言動は、チームに自律性が無く手の届かないことに向かうときに伝染しやすく破壊的になると、著者はリーダーたちの語りからまとめている [What makes effective leadership in agile software…(2022)]”- 状況: 自分をアジャイルのリーダーと考える実務者(スクラムマスター、創業者、アジャイルコーチ、プロジェクトマネージャーなど)へのインタビューによる質的調査で、チームのメンバーがリーダーシップを担うことについて語られた部分。
- やったこと: 介入ではなく、リーダーたちの見方を分類した結果である。
- 起きたこと: インタビューに答えたリーダーたちは、メンバーが自分たちで状況を良くする立場にあると感じている限り、不満を言うことは必ずしもチームの有効性を損なわないと考えていた。著者は、チームに自律性が無いと、メンバーは自分たちの手の届かない要因について不満を言いがちで、そのときの不満はより伝染しやすく破壊的に見えるとまとめている。また別のリーダーは、一人のメンバーの受け身の姿勢が、チームの能動的な働き方を作れなくし、チームの有効性を損ないうると語った。著者は、これが機能不全のチームについての先行研究と重なるとしている。
- 注意点: リーダーの立場から見た語りで、不満の広がりや自律性との関係を測ったものではない。不満への具体的な対応や、その結果は書かれていない。受け身のメンバーの話は 1 人のリーダーの語りである。
- 根拠: 調査(アンケート)/複数チーム。文献: What makes effective leadership in agile software development teams?(2022)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 3.1.1 Have Team Members that Take Initiative and Responsibility。確認の根拠: 原典
- 原文: “Complaining seems more infectious and destructive if teams do not have autonomy because they tend to complain about factors beyond their control.”
アジャイルのリーダーたちは、一歩引いてチームに任せることを重んじつつ、経験のある上司が介入する必要がある場面もあると語った [What makes effective leadership in agile software…(2022)]
Section titled “アジャイルのリーダーたちは、一歩引いてチームに任せることを重んじつつ、経験のある上司が介入する必要がある場面もあると語った [What makes effective leadership in agile software…(2022)]”- 状況: 自分をアジャイルのリーダーと考える実務者(スクラムマスター、創業者、アジャイルコーチ、プロジェクトマネージャーなど)13 人への半構造化インタビューによる質的調査。参加者は米国・ブラジル・ドイツ・英国・チュニジアの、規模の異なる会社に属していた。
- やったこと: 介入ではなく、リーダーたちが語った効果的なリーダーシップの特徴を分類した結果である。
- 起きたこと: 13 人中 10 人が、チームのリーダーシップはチームで分かち合われるときにだけ効果的だと述べた。 8 人は、チームを取り巻く従来型の管理者がチームの自己リーダーシップを損ないうると述べた。リーダーが一歩引くことは、早い段階では導きが要り、個人やチームがより大きな責任を負える時期を見極めにくいため、難しいと語られた。一方で 2 人は、自己組織化を目指していても、経験のある上司が介入する必要がときどきあると明言した。そのうち 1 人は、介入の仕方がはっきりしていたのでチームに歓迎されたと述べ、もう 1 人は、チームがなかなか責任を引き受けないため自分が判断を助けざるをえないことに苛立ちを語った。先輩の社員の支えがあると、メンバーは問題をチームに持ち帰る前にその人に確かめられて助かるとも語られた。
- 注意点: リーダーの立場から見た語りだけで、チームのメンバーの側の受け止めや、介入の結果は調べていない。介入の具体的な中身(どんな問題に、どう介入したか)は書かれていない。対人の摩擦や対立に特定した話ではなく、リーダーシップ全般についての語りである。参加者は少数で、第一著者の自動車会社でのアジャイルの経験が分析に影響した可能性を著者は認めている。
- 根拠: 調査(アンケート)/複数チーム。文献: What makes effective leadership in agile software development teams?(2022)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 3.1 Dynamic Team Leadership(3.1.2 Let Team Members Lead / 3.1.3 Step In, If Needed); 2.1 Participants; 6 LIMITATIONS。確認の根拠: 原典
- 原文: “Two of the interviewees explicitly stated that, even if they strove for self-organization, an experienced supervisor sometimes needed to intervene.”
病院の職員の調査では、対人の対立が多いと答えた職員ほど自分のチームの成果を低く評価し、心理的安全性が高いと答えた職員ほど高く評価していた [The role of transactive memory systems, psychological safety…(2022)]
Section titled “病院の職員の調査では、対人の対立が多いと答えた職員ほど自分のチームの成果を低く評価し、心理的安全性が高いと答えた職員ほど高く評価していた [The role of transactive memory systems, psychological safety…(2022)]”- 状況: 【ソフトウェア以外の領域の事例】ロンドンの 1 つの病院の 4 つの病棟で、職員 106 人に質問紙で、チームの交換記憶(誰が何を知っているか)・心理的安全性・対人の対立・チームの成果を尋ねた研究。対人の対立は、負の感情を伴う人どうしの対立として定義し、仕事の中身についての対立とは区別している(区別は定義の上のもので、仕事の中身の対立は測っていない)。各職員が、自分がよく働くチームについて答え、分析は個人の回答(106 人)で行っている。
- やったこと: 介入ではなく、要因とチームの成果の関係を階層的重回帰で分析したもの。
- 起きたこと: 心理的安全性を加えたモデル(Model 2)では、心理的安全性がチームの成果の最もよい予測因子だった。対人の対立も成果を有意に予測し、対立が多いと答えた職員ほど成果を低く評価していた(p = .02)。対人の対立を加えると、モデルの説明力がさらに 4% 増えた。
- 注意点: 1 つの病院の横断調査で、因果は言えない。成果は職員の自己評価。測ったのは対人の(関係の)対立だけで、仕事の中身の対立は測っておらず、両者の見分け方を確かめたものではない。職員が感じるチームの摩擦を尋ねたもので、特定の 1 人とのぶつかりを扱ったものではない。対象は医療のチームで、ソフトウェア開発のチームではない。
- 根拠: 調査(アンケート)/複数チーム。文献: The role of transactive memory systems, psychological safety and interpersonal conflict in hospital team performance(2022)。文献の種類: 論文・研究者。位置: Results(Predictors of team performance、Model 3)/ Table 3 / Discussion。確認の根拠: 原典
- 原文: “Interpersonal conflict was also a significant predictor of performance adding a further 4% of predictive power to the model”
実務者がチームワークの妨げとして挙げ、「相互の信頼」に分類された項目には、メンバー間の敵意・不寛容・敬意の欠如、多くの対立、誰かの支配欲、責任のなすりつけがあった [A teamwork effectiveness model for agile software…(2022)]
Section titled “実務者がチームワークの妨げとして挙げ、「相互の信頼」に分類された項目には、メンバー間の敵意・不寛容・敬意の欠如、多くの対立、誰かの支配欲、責任のなすりつけがあった [A teamwork effectiveness model for agile software…(2022)]”- 状況: アジャイルのソフトウェア開発チームのチームワークを調べた研究のうち、ノルウェーの 4 社と 3 つのカンファレンスで行ったフォーカスグループ(22 グループ、111 人。開発者・スクラムマスター・チームリーダーなど)。参加者は、チームワークを促すものと妨げるものを付箋に書き出し、各グループが研究者の進行のもとで付箋を既存のチームワークのモデルの要素に分類し、研究者が確かめて数えた。
- やったこと: 介入ではなく、実務者が挙げた促進・阻害の要因を分類した結果である。
- 起きたこと: 書き出された 1426 項目のうち 197 項目(14%)が「相互の信頼」に分類された。その下位の要素は、敬意(28 項目)、社会的な雰囲気(20 項目)、対立(18 項目)、開かれていること(17 項目)などだった。チームワークを妨げるものとして挙がり「相互の信頼」に分類された項目の例(表に載るのは選んだ例)には、メンバー間の敵意、不寛容、敬意の欠如、チーム内の多くの対立、誰かの支配したがる欲求、正直に話すことへの恐れ、責任のなすりつけ合いがあった。「チーム志向」の妨げとしては、一匹狼、大きなエゴ、強い個人主義者、「自分のやり方が一番」、合意を守らないこと、個人の思惑が挙がった。著者は、信頼を表す行動の目印として、既存の「情報の共有」「誤りを認めフィードバックを受け入れる意思」に加え、新たに「支え合うチームの雰囲気」を足した。また先行研究を引いて、人どうしの関係の対立はチームの有効性を下げ、仕事の中身についての対立はむしろ有効性を高めるとし、対立を協働で扱えていることは良く機能しているチームの印になりうると述べている。
- 注意点: 付箋の短い語句を数えたもので、説明の文が無く、内容の深さに限りがあると著者は書いている。参加者は招待に応じた人で、平均よりチームワークに関心が高い可能性があると著者は書いている。北欧で働く人が中心である。項目は実務者の受け止めで、要因と成果の関係を測ったものではない。関係の対立と仕事の対立の区別は、この研究のデータではなく先行研究(Dingsøyr ら、2016)にもとづく著者の議論である。ここに挙がった要因に対して、誰かが何かをした事例は書かれていない。
- 根拠: フォーカスグループ/複数チーム。文献: A teamwork effectiveness model for agile software development(2022)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 3.1 Focus Groups; 4.2.1 Empirical Findings on Mutual Trust(Table 7); 4.2.2; 4.8.1(Table 19); 4.8.2 Discussion of Behavioural Markers for Team Orientation。確認の根拠: 原典
- 原文: “The trust sub-components show a diverse understanding of trust, focusing on the respect of team members, a good social climate in the team, few conflicts, openness, and that team members should feel safe when working in the team.”
アジャイルの意思決定と感情の関係を測った研究では、肯定的な感情が協力と意思決定の質を高め、否定的な感情が対立を増やして意思決定の質を下げると報告されていた [Decision-Making in Agile Software Engineering(2026)]
Section titled “アジャイルの意思決定と感情の関係を測った研究では、肯定的な感情が協力と意思決定の質を高め、否定的な感情が対立を増やして意思決定の質を下げると報告されていた [Decision-Making in Agile Software Engineering(2026)]”- 状況: アジャイルなソフトウェア開発での意思決定を扱った研究 42 本を集めた系統的文献レビュー。付録の一覧で、各研究の方法と、報告された利点・課題を 1 行ずつまとめている。ここで取り上げるのは、そのうち複数の業界のアジャイルチームのメンバーを対象に、感情の状態・協力・対立・意思決定の質を尺度で測り、構造方程式モデルで関係を調べた実証研究(レビューの A33)である。
- やったこと: 介入ではなく、一次研究が測った感情の状態と、協力・対立・意思決定の質との関係を、レビューが要約したものである。
- 起きたこと: レビューの要約によると、この研究では、肯定的な感情が協力と意思決定の質を高めるという結果だった。否定的な感情は対立を増やし、意思決定の質を下げるとされている。レビューは本文でも、効果的な意思決定は道具だけでなく、心理的安全性・共有された理解・直観と構造化された根拠の釣り合いといった社会技術的な要因にも左右されると、複数の研究(この研究を含む)が示しているとまとめている。
- 注意点: 文献レビューの付録の 1 行の要約で、効果の大きさや測り方の詳細はレビューに書かれていない。関係を調べた研究で、対立を減らす打ち手の効果を確かめたものではない。特定のメンバーの言動が繰り返し他の人とぶつかる場面を扱ったものでもない。
- 根拠: 文献レビュー/複数チーム。文献: Decision-Making in Agile Software Engineering: A Systematic Literature Review of Models, Methods, Actors and Lifecycle Contexts(2026)。文献の種類: 論文・研究者。位置: Appendix A, Table A1(A33)/ 4.5 Benefits and Challenges / Table 5(A33 [79]、EMP)。確認の根拠: 原典
- 原文: “Positive affect improves cooperation and decision quality”
アーキテクチャの意思決定を扱った研究の一方は、合意の失敗・対立・一部の人の支配を課題に挙げ、方法にスクラムマスターの仲介を含めていた。もう一方は、意見の食い違いを試作で解いたと報告していた [Decision-Making in Agile Software Engineering(2026)]
Section titled “アーキテクチャの意思決定を扱った研究の一方は、合意の失敗・対立・一部の人の支配を課題に挙げ、方法にスクラムマスターの仲介を含めていた。もう一方は、意見の食い違いを試作で解いたと報告していた [Decision-Making in Agile Software Engineering(2026)]”- 状況: アジャイルなソフトウェア開発での意思決定を扱った研究 42 本を集めた系統的文献レビュー。付録の一覧に、アーキテクチャの意思決定の場での意見の対立に触れた研究が 2 本ある。 1 本は複数の業界のアジャイルチームでアーキテクチャの意思決定を調べた実証研究(A6)、もう 1 本はスクラムのプロジェクトでのアーキテクチャのグループ意思決定を扱った理論的な研究(A11)である。
- やったこと: レビューの一覧では、A6 の意思決定の方法として、グループでの議論・アーキテクチャボード・試作・臨時の会議などが挙げられている。結果の欄には、意見の食い違いを解くための試作が書かれている。 A11 の方法には、合意の規則・上級の専門家に委ねる手(senior-expert fallback)・スクラムマスターによる仲介・決定の見直しなどが挙げられている。
- 起きたこと: A6 では、柔軟で臨時の意思決定と、意見の食い違いを解くための試作が報告されていた。 A6 の課題には、記録・分散したチーム・個人の偏り・階層を上げての持ち上げ(hierarchical escalation)が挙げられていた。 A11 では、アーキテクチャの決定の質・根拠の記録・知識の共有がよくなったとされる。一方で、合意の失敗・対立・一部の人の支配(dominance effects)・共同での決定の複雑さが課題に挙げられていた。
- 注意点: レビューの付録の 1 行の要約で、スクラムマスターの仲介や試作が対立にどう効いたかは書かれていない。 A11 はレビューでは理論的な研究(THE)に分類されており、現場で効果を確かめた結果ではない。仕事(設計)の上の意見の対立を扱ったもので、特定の人の言動が繰り返し他の人とぶつかる関係の対立を扱ったものではない。
- 根拠: 文献レビュー/複数チーム。文献: Decision-Making in Agile Software Engineering: A Systematic Literature Review of Models, Methods, Actors and Lifecycle Contexts(2026)。文献の種類: 論文・研究者。位置: Appendix A, Table A1(A6・A11)/ Table 5(A6 [52]、EMP;A11 [57]、THE)。確認の根拠: 原典
- 原文: “conflict, dominance effects, and complexity of”
アジャイルチームの心理的安全性の先行要因を調べた研究では、心理的安全性が共同の意思決定と、設計に異を唱えようとする姿勢を高めると報告されていた [Decision-Making in Agile Software Engineering(2026)]
Section titled “アジャイルチームの心理的安全性の先行要因を調べた研究では、心理的安全性が共同の意思決定と、設計に異を唱えようとする姿勢を高めると報告されていた [Decision-Making in Agile Software Engineering(2026)]”- 状況: アジャイルなソフトウェア開発での意思決定を扱った研究 42 本を集めた系統的文献レビュー。ここで取り上げるのは、スクラム・XP・カンバンで働く複数の業界の開発者・テックリード・QA・マネージャーを対象にした実証研究(レビューの A8)で、意思決定の方法として、共同の意思決定、建設的な議論、合意づくり、人を責めないレトロスペクティブ、共同の見積り、制約の交渉が挙げられている。
- やったこと: 介入ではなく、一次研究が報告した心理的安全性と意思決定の関係を、レビューが要約したものである。
- 起きたこと: レビューの要約によると、この研究では、心理的安全性が共同の意思決定、設計に異を唱えようとする姿勢、プロダクトの品質を高めるとされていた。一方で、ゆとりの時間が無いこと、自律の制限、リーダーの一貫しない振る舞い、時間の圧力が課題として挙げられていた。
- 注意点: 文献レビューの付録の 1 行の要約で、一次研究の結果の詳細や強さはレビューに書かれていない。心理的安全性を高める介入の効果を確かめたものではなく、対人の摩擦が繰り返される場面を扱ったものでもない。
- 根拠: 文献レビュー/複数チーム。文献: Decision-Making in Agile Software Engineering: A Systematic Literature Review of Models, Methods, Actors and Lifecycle Contexts(2026)。文献の種類: 論文・研究者。位置: Appendix A, Table A1(A8)/ Table 5(A8 [54]、EMP)。確認の根拠: 原典
- 原文: “Psychological safety enhances collaborative decision”
対人の緊張は、コードレビュー・アーキテクチャの決定・見積りなど、批判的なフィードバックや誤りの指摘が要る仕事の場面で表に出やすいと報告されていた [Psychological Safety in Software Workplaces(2025)]
Section titled “対人の緊張は、コードレビュー・アーキテクチャの決定・見積りなど、批判的なフィードバックや誤りの指摘が要る仕事の場面で表に出やすいと報告されていた [Psychological Safety in Software Workplaces(2025)]”- 状況: ソフトウェア開発の職場の心理的安全性についての系統的文献レビュー。ソフトウェア開発に特有の点として、心理的安全性を損なう対人の課題が、どの仕事の場面で起きるかを整理している。
- やったこと: 介入ではなく、一次研究が報告した対人の課題と、それが起きる場面を整理したものである。
- 起きたこと: レビューが引く研究では、提案や考えに反対すること、誤りを指摘することなどの対人の課題が、要求の定義、コードレビュー、開発プロセスの決定といった実践の中で起き、心理的安全性を損ないうるとされていた。著者は、コードレビュー、アーキテクチャの決定、タスクの見積りが、対人の緊張が表に出る場面として繰り返し現れたとしている。これらの場面では、仲間の前での批判的なフィードバック・交渉・誤りの開示が求められ、開発者・チームリーダー・マネージャーの間の力の差が絡むことがあるとも書いている。心理的安全性が欠けた状況として、意見の食い違い、コミュニケーションの問題、良いプログラミングの実践が無いことが挙げられ、顧客・他部署・開発者・リーダー・チームメンバーなど、さまざまな関係の中で起きていた。分散・非同期で働くチームでは、信頼の亀裂を修復したり誤解を解いたりする非公式なやりとりが少ないことも指摘されている。
- 注意点: 文献レビューの整理で、対人の課題と場面の関係は主に少数の一次研究にもとづく。著者自身、ソフトウェア開発のプロセスと心理的安全性の関係を扱った研究は 1 本だけだったと書いている。 5.2 の場面の整理が引く一次研究は、このレビューと著者の重なる研究(Santana ら、2024、IEEE Software)である。対立を減らす打ち手の効果を確かめたものではなく、特定の人の言動が繰り返される場合を扱ったものでもない。
- 根拠: 文献レビュー/複数チーム。文献: Psychological Safety in Software Workplaces: A Systematic Literature Review(2025)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 4.3.1 Antecedents of psychological safety have been reported in software development(Individual level)/ 5.1 Contrasting with related work / 5.2 Distinctive features of psychological safety in software engineering。確認の根拠: 原典
- 原文: “practices such as code review, architectural decisions, and task estimation frequently surface as moments of interpersonal tension”
ソフトウェア開発の研究では、信頼と敬意のある人間関係、集団での意思決定、デイリーやレトロスペクティブなどの社会的なアジャイルの実践が、心理的安全性の先行要因として報告されていた [Psychological Safety in Software Workplaces(2025)]
Section titled “ソフトウェア開発の研究では、信頼と敬意のある人間関係、集団での意思決定、デイリーやレトロスペクティブなどの社会的なアジャイルの実践が、心理的安全性の先行要因として報告されていた [Psychological Safety in Software Workplaces(2025)]”- 状況: ソフトウェア開発の職場の心理的安全性についての研究を集めた系統的文献レビュー。心理的安全性を「印象・地位・キャリアへの悪影響を恐れずに、対人的なリスクを取れること」とまとめ、その先行要因と結果を、個人・チーム・組織の水準に分けて整理している。
- やったこと: 介入ではなく、一次研究が報告した要因と心理的安全性の関係を整理したものである。
- 起きたこと: チームの水準では、信頼と敬意のある人間関係を育てること、集団での意思決定、社会的なアジャイルの実践(デイリースタンドアップ、レビューとレトロスペクティブ、ペアプログラミング、スプリントプランニングなど)が、心理的安全性を高める先行要因として報告されていた。一方で、集団の否定的な感情の傾向(negative affectivity)は、心理的に安全でない環境につながるとされていた。個人の水準では、率直さと人を責めないこと(no blame)が先行要因に挙げられていた。組織の水準では、リーダーの振る舞いと、心理的安全性を組織のリーダーが自分の責任として持つことが挙げられていた。結果の側では、心理的安全性がチームの成果・所属感・有効性・知識の共有などと正の関係にあると報告されていた。また、心理的安全性が欠けた結果として人材の流出(brain drain)を示した研究が 1 本だけあるとされている。
- 注意点: 文献レビューが述べる一次研究の知見で、効果を確かめた介入ではない。著者によると、一次研究の多くは同じ回答者の質問票だけに頼っており、共通方法バイアスで関係が大きく出ている可能性がある。複数の情報源のデータを使った研究は見つからなかった。心理的安全性を高める介入を報告した研究は、レビューの中で 1 本だけだった(ツールを使った介入)。特定のメンバーが繰り返し他者とぶつかる場面を扱った研究ではない。
- 根拠: 文献レビュー/複数チーム。文献: Psychological Safety in Software Workplaces: A Systematic Literature Review(2025)。文献の種類: 論文・研究者。位置: 4.2 / 4.3.1 Antecedents of psychological safety have been reported in software development(Team level / Organizational level / Individual level)/ 4.4 Other findings / 5.1 Contrasting with related work。確認の根拠: 原典
- 原文: “highlighted the fostering of interpersonal relationships of trust and respect as a relevant antecedent for the team”
医療で心理的安全性と発言を高めようとした介入 14 件のレビューでは、心理的安全性そのものを測った 3 件のうち 2 件が改善、1 件はまちまちで、効果は一貫していなかった [A systematic review exploring the content and outcomes…(2020)]
Section titled “医療で心理的安全性と発言を高めようとした介入 14 件のレビューでは、心理的安全性そのものを測った 3 件のうち 2 件が改善、1 件はまちまちで、効果は一貫していなかった [A systematic review exploring the content and outcomes…(2020)]”- 状況: 【ソフトウェア以外の領域の事例】医療の職場で、心理的安全性・発言(speaking up)・意見表明を高めようとした介入の研究を集めた系統的レビュー。介入は、シミュレーション・動画と事例・ワークショップなどの教育を含むものと、ファシリテーションやアクションリサーチの会合など教育を含まないものに分かれる。
- やったこと: 介入ではなく、介入の研究を物語的に統合したもの。
- 起きたこと: 14 件の介入のうち、心理的安全性そのものを成果として測ったのは 3 件で、2 件は改善、1 件は結果がまちまちだった、とレビューは述べる。「質問・異議・報告・発言」の成果では、改善 5 件、まちまち 3 件、有意差なし 1 件だった(1 本は改善とまちまちの両方に数えられている)。レビューの結論は、介入の効果は一貫していないというもので、その理由として客観的な測定が無いことと、教育だけでは根付いた発言の行動を変えにくいことを挙げている。あるセンターでは、不適切な振る舞いをした同僚に声を上げる方法と対立の扱い方を教えたあと、職業人としての振る舞いについての懸念の報告が 3 年にわたって増えた、とレビューは紹介している(Shapiro ら)。
- 注意点: 対象は医療の職場で、ソフトウェア開発のチームではない。心理的安全性を測った研究は 3 件だけ。懸念の報告が増えた事例は一次研究 1 件で、対照群の有無はレビューの本文からは分からず、振る舞いそのものが減ったかも分からない。スクラムマスター 1 人の関わり方ではなく、研修・シミュレーション・ファシリテーションなど、研究者や組織が用意した介入である。
- 根拠: 文献レビュー/複数チーム。文献: A systematic review exploring the content and outcomes of interventions to improve psychological safety, speaking up and voice behaviour(2020)。文献の種類: 論文・研究者。位置: Results(Interventions most effective at improving psychological safety…)/ Narrative synthesis(Video presentations and case studies)/ Discussion。確認の根拠: 原典
- 原文: “Three studies had “Psychological safety” as an outcome, with one of these reporting mixed results”
規範文書が勧める打ち手と、その証拠
Section titled “規範文書が勧める打ち手と、その証拠”規範文書(コーチングの枠組みなど)が「こうするとよい」と勧めている文と、その主張を確かめた研究。上の事例・知見とは根拠の性質が違う。証拠の分野がソフトウェア開発の外の研究もある。
考え方: 対立やコラボレーションの難しさに直面した瞬間は、単に関わっている個人の問題として捉えるのではなく、ヒューマンシステムのダイナミクスとして捉えるべきです。
Section titled “考え方: 対立やコラボレーションの難しさに直面した瞬間は、単に関わっている個人の問題として捉えるのではなく、ヒューマンシステムのダイナミクスとして捉えるべきです。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(serving-the-team)
- 証拠: 1 件(支持 1)
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): ドイツの 5 つの Scrum チームのグラウンデッド・セオリー(インタビューと会議の観察)。協力の難しさは、実際の技術力より、各メンバーの役割の受け入れと期待のずれから生じていた、と著者はまとめている。根拠は少数の挿話と著者のまとめ。対立を個人の問題としてでなく、チームのシステムの問題として見る主張を支える。 文献: Role clarity deficiencies can wreck agile teams。位置: RESULTS(Self-Reflection to gain Local role clarity)/ Summary of findings。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
打ち手: チームの立ち上げ期において、チームの目的、役割、合意事項の作成、およびアライメント(整合)をファシリテートする。
Section titled “打ち手: チームの立ち上げ期において、チームの目的、役割、合意事項の作成、およびアライメント(整合)をファシリテートする。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(serving-the-team・段階 2・launch-a-team)
- 証拠: 1 件(支持 1)
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): 5つのアジャイルチームのグラウンデッド・セオリー研究において、チーム立ち上げ・自己組織化における全員の役割の交渉と合意形成(局所的な役割の明確さとチーム全体の役割の明確さ)が極めて重要であり、明確さの欠如は摩擦や高い離職率を招くこと、そしてアジャイルコーチが役割の明確さを創出し維持するために不可欠であることを実証している。 文献: Role clarity deficiencies can wreck agile teams。位置: Abstract / Conclusion。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
打ち手: チームの対立対処能力を向上させるために、対立を前向きに表面化させる。
Section titled “打ち手: チームの対立対処能力を向上させるために、対立を前向きに表面化させる。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(serving-the-team・段階 3・team-dynamics)
- 証拠: 2 件(支持 1・条件付き 1)
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): ドイツの 5 つの Scrum チームのグラウンデッド・セオリー。コーチがレトロで取り上げた事例(E1)と、チームが会議で感情を明示的に扱った事例(E2)について、著者は適切な交渉が感情のエネルギーをチームの仕事に向けたと述べる。一方、私的に打ち明けたあと解決を追わずに黙り込んだ対立(E4)は、チームの解散に至った。少数の事例にもとづく。 文献: Role clarity deficiencies can wreck agile teams。位置: RESULTS(The effects of emotions、E1–E4)。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
- 条件付き(ソフトウェア開発のチーム): 系統的文献レビュー(査読誌 Information and Software Technology 掲載版の著者稿)。Santana et al. 2024 は、提案に反対する・誤りを指摘する、といった対人上の難しさが心理的安全性を損ないうると報告した、とレビューは述べる。対立を表に出す行為は対人上の危険を伴い、その出し方が問われる。一次研究 1 本で、このレビューと著者が重なる。方法はレビューに書かれていない(弱)。 文献: Psychological Safety in Software Workplaces: A Systematic Literature Review。位置: 4.3.1 Individual level。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
打ち手: さまざまなチームにおけるチームの機能不全に対処するための、少なくとも3つの手法を適用する。
Section titled “打ち手: さまざまなチームにおけるチームの機能不全に対処するための、少なくとも3つの手法を適用する。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(serving-the-team・段階 3・team-dynamics)
- 証拠: 1 件(条件付き 1)
- 条件付き(ソフトウェア開発のチーム): ドイツの 5 つの Scrum チームのグラウンデッド・セオリーの 1 つの挿話。会議を妨げるメンバーの言動をコーチがレトロの話題にすると、本人の振る舞いは変わらなかったが、周りは個人的に受け止めなくなった。機能不全への打ち手の効果は、周りの受け止めの側に限られた(弱)。 文献: Role clarity deficiencies can wreck agile teams。位置: RESULTS(Robustness Against Dysfunctional Behavior)。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
考え方: ファシリテーターは、グループの場において、オープンで安全、かつイノベーティブな中立的環境を作り出すスキルを持っています。
Section titled “考え方: ファシリテーターは、グループの場において、オープンで安全、かつイノベーティブな中立的環境を作り出すスキルを持っています。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(facilitating)
- 証拠: 2 件(支持 2)
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): 系統的文献レビュー(査読誌 Information and Software Technology 掲載版の著者稿)。Christensen & Tell 2022 では、ふだん口に出さない話題を開いて話し合う介入の活動のあと、チームメンバーの感じる心理的安全性が高まった、とレビューは述べる。根拠は一次研究 1 本で、レビュー自身も介入を報告したのは 1 本だけと書く。研究の方法はレビューに書かれていない(弱)。 文献: Psychological Safety in Software Workplaces: A Systematic Literature Review。位置: 2.2 / 4.3.1 Organizational level / 5.1。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
- 支持(医療): 医療の介入 14 件の系統的レビューによると、看護師へのホリスティックなファシリテーションで心理的に安全な場ができ、多職種のチームの中で意見の違いを前よりオープンに話せるようになった。根拠は一次研究 1 件で、測り方はレビューに書かれていない(弱)。 文献: A systematic review exploring the content and outcomes of interventions to improve psychological safety, speaking up and voice behaviour。位置: Narrative synthesis(Interventions without educational component、Brown & McCormack [47])/ Results(Interventions most effective at improving psychological safety…)。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
打ち手: 中立性(Neutrality):グループ内の各個人の視点やニーズを、判断(ジャッジ)することなく尊重します。
Section titled “打ち手: 中立性(Neutrality):グループ内の各個人の視点やニーズを、判断(ジャッジ)することなく尊重します。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(facilitating・Facilitation Mindset)
- 証拠: 1 件(支持 1)
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): Bosch のグラウンデッド・セオリー(53 人、ソフトウェアとそれ以外のチームが半々)。スクラムマスターは異なる視点を持つ個人の間を仲裁し、各自の見解を尊重し合うよう支援した。司会役(Moderator)として個人の視点をジャッジなく尊重し対話を促す役割を支える。 文献: An empirical study on changing leadership in agile teams。位置: 4.1.6 Role 6: Moderator。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
打ち手: 多様な意見を認識し、歓迎する。
Section titled “打ち手: 多様な意見を認識し、歓迎する。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(facilitating・Facilitation Mindset・段階 1・belief-in-the-group)
- 証拠: 1 件(支持 1)
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): 161 チーム 1,118 名の調査。メンバーが安全に多様な情報を共有・吟味できる環境にあるチームは、チーム有効性が高く(β=.660, p<.01)、関係性の対立が少なかった(β=-.636, p<.01)。多様な視点を対立ではなく強みとして認識・受容する姿勢がチームの有効性に直結する。 文献: The Double-Edged Sword of Diversity: How Diversity, Conflict, and Psychological Safety Impact Agile Software Teams。位置: Practical Implications (Table VI)。
打ち手: 無条件の肯定的関心を実践し、常に善意を前提とする。
Section titled “打ち手: 無条件の肯定的関心を実践し、常に善意を前提とする。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(facilitating・Facilitation Mindset・段階 3・belief-in-the-group)
- 証拠: 1 件(支持 1)
- 支持(組織一般): 心理的安全性(メンバーが拒絶や処罰を恐れず、互いの善意と無条件の尊重を前提として安全に情報や意見を出し合える環境)が関係性の対立を有意に激減させ(β = −.636, p < .01)、チーム有効性を強力に高める(β = .660, p < .01)実証結果に基づいている。 文献: The Double-Edged Sword of Diversity: How Diversity, Conflict, and Psychological Safety Impact Agile Software Teams。位置: Table VI: Summary of Key Findings & Implications / Psychological safety & team effectiveness。
打ち手: 客観的で、防衛的にならず、判断を交えないスタンスを維持する。
Section titled “打ち手: 客観的で、防衛的にならず、判断を交えないスタンスを維持する。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(facilitating・Facilitation Mindset・段階 4・belief-in-the-group)
- 証拠: 1 件(支持 1)
- 支持(医療): 医療の介入 14 件の系統的レビュー。麻酔チームの重大な出来事のシミュレーションで、振り返りのリーダーが否定的な評価の言葉を使うと心理的安全性が低かった、とレビューは述べる。根拠は一次研究 1 件(未公刊の学位論文)(弱)。 文献: A systematic review exploring the content and outcomes of interventions to improve psychological safety, speaking up and voice behaviour。位置: Narrative synthesis(Educational interventions and simulation exercises、Dufresne [37])。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
打ち手: 気づき(アウェアネス)を深める(Deepen Awareness):成果を達成するための舞台を整えます。グループから洞察を引き出し、潜在的な課題を探求し、内省(省察)を支援します。コンフリクト(対立)の価値を説明し、認識を促し、前提を探求することで、コンフリクトを乗りこなします。
Section titled “打ち手: 気づき(アウェアネス)を深める(Deepen Awareness):成果を達成するための舞台を整えます。グループから洞察を引き出し、潜在的な課題を探求し、内省(省察)を支援します。コンフリクト(対立)の価値を説明し、認識を促し、前提を探求することで、コンフリクトを乗りこなします。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(facilitating・Facilitation Skills)
- 証拠: 1 件(条件付き 1)
- 条件付き(医療): ロンドンの 1 病院の職員 106 人の質問紙調査(個人の回答を分析)で、対人の対立が多いと答えた職員ほど、自分のチームの成果を低く評価していた(Model 3・4 とも p=.02)。対人の対立は負の感情を伴う対立として定義され、仕事の中身の対立は測っていない。対立の価値を説く主張に対し、対人の(関係の)対立は成果の低さと結びついていた、という条件を付ける(弱〜中)。 文献: The role of transactive memory systems, psychological safety and interpersonal conflict in hospital team performance。位置: Results(Predictors of team performance、Model 3)/ Table 3。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
打ち手: 多様な視点の価値について、グループとしての理解を育む。
Section titled “打ち手: 多様な視点の価値について、グループとしての理解を育む。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(facilitating・Facilitation Skills・段階 4・guiding-the-process)
- 証拠: 1 件(支持 1)
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): Bosch のグラウンデッド・セオリー(ソフトウェアのチーム 14 とそれ以外のチーム 15)。異なる領域の人どうしをスクラムマスターが仲介し、互いの見方を受け入れられるようにしたという報告。効果は測っていない(弱)。 文献: An empirical study on changing leadership in agile teams。位置: 4.1.6 Role 6: Moderator。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
打ち手: 信頼、つながり、そしてインクルーシブネスを育むコンテナ(場)を創り出す。
Section titled “打ち手: 信頼、つながり、そしてインクルーシブネスを育むコンテナ(場)を創り出す。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(facilitating・Facilitation Skills・段階 4・participatory-environment)
- 証拠: 4 件(支持 2・条件付き 2)
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): Bosch のグラウンデッド・セオリー(ソフトウェアのチーム 14 とそれ以外のチーム 15)。スクラムマスターのファシリテートするレトロが、チームの信頼を育て、個人的なことも率直に話せるようにした、と回答者が語った(認識の報告)。 文献: An empirical study on changing leadership in agile teams。位置: 4.3 / 4.4 Retrospective。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
- 条件付き(ソフトウェア開発のチーム): Ericsson の大規模な変革の事例研究。対面の価値観のワークショップは参加者に好評だったが、拠点 E のメンバーが参加しなかったため、拠点をまたぐチームの結束には、本来できたほどには役立たなかった。場づくりの効果は参加の範囲に左右される(弱)。 文献: Large-scale agile transformation at Ericsson: a case study。位置: 4.2.3 Phase 2 Value Workshops / 4.3.6 Cross-Site Teams。
- 支持(医療): ロンドンの 1 病院の 4 病棟の職員 106 人の質問紙調査(階層的重回帰)。心理的安全性が高いと答えた職員ほど、自分のチームの成果を高く評価していた(Model 2 p<.001、Model 3 p=.005、Model 4 p=.02)。場を作る行動そのものは試しておらず、その場が狙う状態と成果の結びつきを示す。横断調査で因果は言えず、成果は自己評価(弱〜中)。 文献: The role of transactive memory systems, psychological safety and interpersonal conflict in hospital team performance。位置: Results(Predictors of team performance、Model 2・3)/ Table 3。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
- 条件付き(医療): 医療で心理的安全性・発言を高めようとした介入 14 件の物語的統合。心理的安全性そのものを成果として測ったのは 3 件で、2 件は改善、1 件はまちまちだった。レビューの結論は、介入の効果は一貫していないというもので、客観的な測定が無いことと、教育だけでは根付いた発言の行動を変えにくいことを理由に挙げる。場を作れば安全性が育つとは言い切れない(中)。 文献: A systematic review exploring the content and outcomes of interventions to improve psychological safety, speaking up and voice behaviour。位置: Results(Interventions most effective at improving psychological safety…)/ Discussion。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
打ち手: 本物であること(Authenticity):倫理的に振る舞い、強い信念と価値観の体系を持ち、クライアントを判断せず安全な場に置きます。
Section titled “打ち手: 本物であること(Authenticity):倫理的に振る舞い、強い信念と価値観の体系を持ち、クライアントを判断せず安全な場に置きます。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(coaching・Coaching Mindset)
- 証拠: 2 件(支持 2)
- 支持(組織一般): 満足度 4 以下のコーチング経験を語った管理職・経営層 12 人(13 件)への半構造化インタビュー(内容分析)。コーチが直属の上司の親しい友人だと後で知り、「話したことが伝わっていないか」と不安になった、といった守秘と安全な場の欠如が否定的な経験として語られた。判断せず安全な場に置く、という文を、逆側から支える。倫理そのものは測っていない。受講者の視点だけ(弱)。 文献: The coaching flipside: Factors underlying unsuccessful workplace coaching interventions and the implication for human resource development。位置: §3.2.2。
- 支持(医療): 医療の介入 14 件の系統的レビュー(物語的統合)。麻酔チームの重大な出来事を想定した模擬演習で、振り返りを進めるリーダーが否定的な評価の言葉を使うと、心理的安全性は低かった、とレビューは述べる。判断を挟まず安全な場を保つ、という文を支える。根拠は一次研究 1 件(未公刊の学位論文)(弱)。医療の模擬演習だが、否定的な評価の言葉と安全性の関係を測った研究なので B として数える(概念を測っていない類推 C ではない)。 文献: A systematic review exploring the content and outcomes of interventions to improve psychological safety, speaking up and voice behaviour。位置: Narrative synthesis(Educational interventions and simulation exercises、Dufresne)。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
打ち手: 中立性(Neutrality):クライアントの視点とニーズを、判断せずに尊重します。影響を与えず、クライアントのアジェンダを保持します。クライアントの依存を減らし、クライアントが自立して前に進めるようにします。
Section titled “打ち手: 中立性(Neutrality):クライアントの視点とニーズを、判断せずに尊重します。影響を与えず、クライアントのアジェンダを保持します。クライアントの依存を減らし、クライアントが自立して前に進めるようにします。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(coaching・Coaching Mindset)
- 証拠: 1 件(支持 1)
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): アジャイルコーチ 19 人へのインタビュー研究(HICSS 2021)。チームが高い成果の段階に達するとコーチは要らなくなった、コーチはチームの仕事を代わりにはやらない、と語られた。クライアントの依存を減らし、自立して進めるようにする、という文を支える認識の報告(弱)。CC BY-NC-ND の文献で quote は空。 文献: The Agile Coach Role: Coaching for Agile Performance Impact。位置: §4.1・§4.2(p.6820〜6821)。
打ち手: プレゼンス(Presence):クライアントと共に十分に意識を向けて存在し、オープンで、柔軟で、地に足のついた、自信のあるスタイルで関わります。感情や反応を自己管理し、クライアントと共に十分に在り続け、判断から離れて好奇心を保つことができます。
Section titled “打ち手: プレゼンス(Presence):クライアントと共に十分に意識を向けて存在し、オープンで、柔軟で、地に足のついた、自信のあるスタイルで関わります。感情や反応を自己管理し、クライアントと共に十分に在り続け、判断から離れて好奇心を保つことができます。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(coaching・Coaching Skills)
- 証拠: 1 件(支持 1)
- 支持(医療): 療法家 839 人の横断オンライン調査(テレセラピーの介入の尺度の開発)。治療的プレゼンス(Geller の尺度)は、作業同盟(r=.594)・リアルな関係(r=.696)と正の相関を示した(Table 2。数値は表にだけある)。十分に意識を向けて共にいる、という文の前半に当たり、「判断せず好奇心を保つ」は測っていない。すべて自己報告で、治療成果は測っていない(弱)。コーチングではなく心理療法の場だが、プレゼンスそのものを測った研究なので B として数える(概念を測っていない類推 C ではない)。 文献: Mastery of teletherapy is related to better therapeutic relationship and presence in teletherapy: the development of the teletherapy intervention scale。位置: Results / Table 2。
打ち手: ラポールと安全の構築(Building Rapport and Safety):クライアント(個人またはシステム)とパートナーを組み、クライアントが自由に話せるよう、安全で支えのある守秘された環境をつくります。相互の尊重と信頼の関係を保ちます。
Section titled “打ち手: ラポールと安全の構築(Building Rapport and Safety):クライアント(個人またはシステム)とパートナーを組み、クライアントが自由に話せるよう、安全で支えのある守秘された環境をつくります。相互の尊重と信頼の関係を保ちます。”- 出典: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(coaching・Coaching Skills)
- 証拠: 11 件(支持 7・条件付き 4)
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): アジャイルコーチ 19 人へのインタビュー研究(HICSS 2021)。コーチは、「失敗してよい」と感じられるようにし、信頼を中心に置いたと語った。安全と信頼の面を支える認識の報告で、守秘は測っていない(弱)。CC BY-NC-ND の文献で quote は空。 文献: The Agile Coach Role: Coaching for Agile Performance Impact。位置: §4.1 Effort(p.6818〜6819)。
- 条件付き(組織一般): 南アフリカのコーチング・スーパーバイザー 13 人への半構造化インタビュー(主題分析)。コーチが持ち込む倫理的課題のうち、最大のものの 1 つは守秘で、組織がコーチングの中身を明かすよう求める圧力だった(6 人が三者関係と守秘を挙げた)。安全で守秘された環境をつくる、という文に対し、組織の圧力で守秘を保ちにくいという条件を付ける。認識の報告(弱)。 文献: Supervisors’ perspectives on the contribution of coaching supervision to the development of ethical organisational coaching practice。位置: Findings > Three-way relationships and confidentiality。
- 条件付き(医療): オランダの病院の医師 184 人(コーチ 36 人)の 3 時点の質問紙調査。作業同盟(絆の項目を含む)は、感情の成果には欠かせないが、行動の成果にはそれほど効かなかった。信頼や守秘そのものは測っていない。安全で支えのある関係を保つ、という文の効果を条件付ける(弱)。 文献: It’s a match! The role of coach–coachee fit for working alliance and effectiveness of coaching。位置: Discussion。
- 支持(組織一般): オランダの受講者 181 人の 2 時点の調査。作業同盟の下位尺度のうち、コーチとの絆(尊重し合う関係)が目標達成を最もよく予測した(β=.20)。尊重と信頼の関係を保つ、という文の関係の面を支える。守秘や安全は測っていない。対照群なし(弱)。 文献: Prospective associations between working alliance, basic psychological need satisfaction, and coaching outcome indicators: a two-wave survey study among 181 Dutch coaching clients。位置: Discussion > Working alliance and goal attainment。
- 条件付き(組織一般): 組織の成人へのコーチング 52 本の体系的レビュー。経営層を対象にした 1 件の研究では、ラポールを築くなどのコーチの行動は、結果と関連しなかった。別の 1 件でも、コーチとの関係のうちラポールとコミットメントだけが有効性と関連し、ほかの側面は関連しなかった(どちらの研究も偏りの危険が高い)。ラポールと安全をつくる行動の効果を条件付ける。レビューの要約を介した二次報告(弱)。 文献: Coaching as a Developmental Intervention in Organisations: A Systematic Review of Its Effectiveness and the Mechanisms Underlying It。位置: Results > Mechanisms – Coach。
- 支持(組織一般): 認識された傾聴と職場の成果の、事前登録した三水準メタ分析(122 本)。関係の質との相関が最も強く(r̄=.51)、信頼は r̄=.57(Table 8)。尊重と信頼の関係を保つ、という文の関係の面を支える。守秘は測っていない。心理的安全性の数値は表によって異なる。相関で、自己報告が多い(弱〜中)。 文献: A Meta-analytic Systematic Review and Theory of the Effects of Perceived Listening on Work Outcomes。位置: Results(Table 5・Table 8)。
- 支持(組織一般): ハイテク企業と保険会社のチーム(N=51 と 73)の準現場実験 2 つ。聞き方の研修の後、同僚との近さ(relatedness)が増えた(d=0.78〜1.14)。尊重と信頼の関係を保つ、という文の関係の面にだけ当たり、安全・守秘は測っていない。助言・評価をしない研修のルールを含む複数要素の介入(弱)。 文献: Learning to listen: Downstream effects of listening training on employees’ relatedness, burnout, and turnover intentions。位置: §3.2.2 / §4.2.2。
- 支持(医療): 医療の介入 14 件の系統的レビュー。新しく作った多職種のプロジェクトチームで、著者の支援的なリーダーシップが会議の心理的安全性を促したが、もう 1 チームでは十分に育たなかった。安全で支えのある環境をつくる、という文を支える。根拠は一次研究 1 件(アクションリサーチ)・2 チームの比較(弱)。 文献: A systematic review exploring the content and outcomes of interventions to improve psychological safety, speaking up and voice behaviour。位置: Narrative synthesis(Interventions without educational component、O’Leary)。同じ文献の知見は、上の事例・知見の節にもある。
- 支持(ソフトウェア開発のチーム): Scrum チームのメンバー 11 人への聞き取りの質的研究(ドイツ語圏)。Scrum Master との信頼のある関係は、満足度と業績を高めてチームの効果につながる、と語られた。「相互の尊重と信頼の関係を保つ」の部分に対応するが、守秘や安全な環境は測っていない。著者は、この研究は複雑な相互作用を単純化していると書く。メンバーだけを調べ、標本が小さい(弱)。 文献: Selbstorganisiert und dennoch geführt – eine explorative Studie zur Führung durch Scrum Master。位置: §5 Diskussion。
- 支持(医療): アジャイルコーチングの研究を整理したマッピング研究(Scopus で 497 件を検索し、主要研究 22 本を選定)。薬局の無作為化比較試験 1 本(Jocic 2024)で、アジャイルコーチを入れた群の心理的安全性の認識が対照群より大きく改善した、とレビューが短く述べる。二次的な報告で、人数や数値は本文に無い。「無作為化比較試験」という語は参考文献の題名にだけある。検索が Scopus 一つで、実証研究が少ないことを著者が限界に挙げる(弱)。 文献: Agile Coaching Research: A Systematic Mapping Study。位置: §3.1 Agile Coaching Research Themes(Coaching for Agile Culture)。
- 条件付き(組織一般): 英国の既存チーム 6 つ(51 人)の無作為化試験で、LSP を使うチームコーチングとチームのファシリテーションを比べた。心理的安全性の時間×条件の交互作用は有意でなく(F(2,48)=2.41、p=0.10)、両群とも時間とともに上がった。コーチングの場で安全な環境をつくる、という文は、このデザインでは「コーチング特有の上乗せ」として示されなかった。要旨の書き方は、本文の検定の結果とは食い違う。チームが 6 と少なく、LSP の効果を分けられない(弱)。 文献: Team coaching using LSP and team facilitation: a randomized control trial study measuring team cohesion and psychological safety。位置: Discussion 第 2 段落(統計は Results の心理的安全性の段落)。
この節の出典は、次のとおり。
出典の文書: Agile Coaching Growth Wheel v3.2(CC BY-SA 4.0)。日本語訳と文の分割は本サイトによる。
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- 【Faithfulness(忠実性): 5/5】前提コンテキストに記載されている事実・研究結果・注意点のみに厳格に基づいており、コンテキスト外の推測、俗説、独自の処方箋などの捏造や飛躍は一切見られません。「特定の 1 人がぶつかる言動を繰り返すときに、スクラムマスターの関わり方の効果を確かめた文献は見つかっていない」というエビデンスの限界・前提条件を正確に踏まえ、各事例(役割の曖昧さの見立て、POによる仲裁、コーチによるレトロスペクティブでの話題化、医療や意思決定の研究レビューなど)もコンテキストの記述に極めて忠実に要約されています。【Relevance(関連性・的確性): 4/5】「スクラムマスターはどう関わるのが良いか?」という実践的な問いに対し、直接的な効果検証文献が存在しないことを冒頭で誠実に断った上で、文献から得られる「見立て(技術力ではなく役割や期待のずれに着目する)」や「実際の打ち手事例(レトロスペクティブで話題にする、率直なフィードバックの場を設ける)」を提示している点は的確です。一方で、後半部分(医療における心理的安全性介入のレビュー、病院職員の調査、意思決定と感情の研究など)は、前提コンテキストに含まれる知見を網羅的に要約・羅列する形になっており、「他のメンバーとぶつかる言動を繰り返す人にスクラムマスターがどう関わるべきか」という質問の核心に対する直接的な示唆や整理としては焦点がやや拡散しています。